試合開始1時間半前、11時30分。フランス語がクラブハウスを付きぬけ、グラウンドにまで響き渡る。通行人がクラブハウスを見上げながら足を止める。しとしとと雨が降る月曜日。
「この18ヶ月間、お前達の思うとおりにやらせてきた、お前達に判断させてきた、しかし、結果はどうだ?弱い、強い関係なく、対戦するどの相手にも負けている。これは、お前達の責任ではない。我々スタッフの責任だ。もう1つ、判断は判断する素材がないと生まれない。これは、我々が試合中にあまりにも与えてこなかった。だから、我々の責任。だが、今日からはこの素材を全てお前達に与える。だから、まずは聞け。好むと好まないとに関わらずだ。それができるようになってから、またお前達に判断させてやる。繰り返すが、判断するためのABCがないと何もできないからな。車の運転方法を知らない者に、道路を走らせることができないのと同じだ。そして、これができない者はすぐにグラウンドから出す。その後ずっと出られないわけではない。チャンスは与える。だが、できなければまたベンチに戻る。ここに1年生が来ているな。なぜだ?人数あわせか?違うぞ。1年生でも出るチャンスがあるということだ。つまり、もう、2年生だけの時期は終わった。こちらの指示が聞けず、実行できない者は年齢に関係なくプレーできない。逆に、それができるとこちらが判断した場合には、1年生であろうと試合に出るということだ。ここまでわかったか。」
デュソー氏のスピーチは攻守の原則から、個々の役割について進んでいく。選手の主だったものを刺激しながら。声のトーンはますます激しくなる。
「お前は、キャプテンの素質がある、テクニックも持久力も優れている。だが、こちらの話を聴かない。例えば、ヘディングの練習で頭で叩きに行けと言っているにもかかわらず、やらない。トレーニングでやらなければ、試合で出るわけがない。アカデミーの失点の90%は斜めのロングボールから。落下地点を予測するのは簡単だぞ。そこまで行く時間は十分にあるぞ。一人が競って、一人がカヴァー。何度言ってきた?これは注意力の問題。そして、お前。何分たって目が覚めるんだ?2点取られてからか?アカデミーがはじまってからずっと言い続けているぞ。お前が変わろうとしないなら、絶対に変わらない。18ヶ月のことはすべて忘れろ、今、目を覚ませ。両サイドバックはいつも言っているな。お前達のランニングの距離は半径5m。そうじゃないだろ!あと10倍距離を伸ばせ!行って、帰って、行って、帰ってを繰り返せ。できるぞ。守備的ミッドフィルダーの2人。まずは、ボールを奪え。8割の仕事はボールを奪って、シンプルにつなぐこと。それができてから、攻めに関われ。一人が上がったら、一人はバランスを取れ。同サイドに2人がいくな。ポジショニングがすべてだぞ。お前は、ゲームにリズムを作れる唯一の男だ。ゲームスピードを遅くしたり、早くしたりな。スルーパスもうまい。だが、今までのスルーパスはハエが止まって、手をこすれるものだ。今日からは、もっとフォワードを走らせる強いパスを出せ。パスにメッセージを込めろ。それから、すぐにミスを他人のせいにするな。まずは、お前だ。お前が守備をして、攻撃をしろ。足元のパスで組み立て、最後はスペースへ出せ。3人のフォワード。もう、足元を卒業しろ。足元に受けたら、落として前のスペースへ爆発的ダッシュだ。爆発的だぞ。わかるか。爆発的スピードには確固たる決意が必要だ。そして同じ場所に絶対に留まるな。右斜め、左斜め、時には中央。とにかく、スペースへ要求し続けろ。ボールを持ったら、時にはしかけろ。1週間やってきただろ。サポートありのワンツーを。そのときのスピードを忘れるな。スピードを一瞬でも緩めたら負けだと思え。GKは近くばかり探すな。時には、前に大きく蹴れ。もし、近くばかりにつないだら、相手はどうする?前にガンガンプレッシャーにくるぞ。相手を押し返すためにも、相手に悟られないためにも近くと遠くを使い分けろ。11時25分にアップ開始。35分間やれ。こっちは時間しか言わないぞ。ランニング、パス交換、ポゼッション、ダッシュだ。」
ウォーミングアップ中は一切選手に話しかけない。そして、試合直前、再確認作業に入る。「守備は一人が寄せて、他の者はパスコースを消せ。そして、カヴァーリングを忘れるな。すべての落下地点に行け。同時に複数で行くな。一人で十分だ。残りの者はセカンドボールを狙え。そして、奪ったらシンプルに素早くつなげ。そして組み立ててから、スピードアップだ。」
開始の笛を待つ時間にもデュソー氏はコーチングを忘れない。
「ディフェンスラインをもう少し上げろ」
開始からアグレッシヴなボールの奪い合いが続く。FC東京は身体能力が高く、とても同じ中2とは思えない。ボールへの寄せも早く、パススピードも速い。しかし、アカデミーの守備ブロックはすばらしい集中を見せ、中盤で特に予測をベースにしてボールを奪う。中盤でしっかりボールに寄せているから最終ラインも次のパスコースを読みやすい。シンプルな組み立てもでき始め、前線のスペースへボールが入るようになった。ただ、中盤からのスピードアップが少し早すぎて完全にチャンスになるまではいかない。フォワードからのブロック形成、ディフェンスの押し上げがデュソー氏のコーチングによって一時も休まず続き、選手の集中も切れることがない。FC東京はロングパスしか見出せない。つまり、簡単にボールを失っている。アカデミーには躍動感と連帯感がみなぎっている。得点はすばらしい組み立てからうまれた。ボールを奪ってから中盤でシンプルに足元のパスが続き、最後はフリースペースへ猛烈ダッシュをしかけるフォワードへ。少々角度がないかに見えたが、すべての思いがつまったシュートが相手ゴールを揺らした。デュソー氏のコーチングは続く。「一人で行け、中に入らず、たてに仕掛けろ。パスを出してスペースへ。落下地点に入るのは一人だぞ。フォワードは戻ってすぐにブロックを形成しろ。中盤は誰だ。バランスを保て。もっと右だ。もっと後ろへ。お前は残ってろ。GKのクリアボールにフォワードは固まるな。広がって、スペースで待て。2対1だぞ。上がったスペースを埋めるのは誰だ。たてにはやいぞ。もっと足元で相手をひきつけて、スペースを狙え。キーパー、もっと前へ出ろ。そこは、持つところじゃないぞ。コーナーで全員帰るな。クリアボールをキープしろ。ディフェンス、上げろ!!シンプルに!!横が見えたか?カヴァーに来い!フォワードは組み立てで深みをとるな。パスの距離を考えろ。スローインのボールより前に人数をかけすぎるな。取られたら一気にピンチだぞ。」
80分を通して、指示がやむことはない。そして、選手はその指示を体で吸収していく。問題が起きたらすぐに修正する。組織、個人戦術のABCが体に染み込むまで。こうすることにより、トレーニングとゲームがリンクしていく。ここでまた、デュソー氏の言葉を思い出す。「クリエイティヴなプレーヤーは基礎を知っている。基礎から生まれるもの、それがクリエイティヴィティ。基礎はコーチが指示して教え込むしかない。」1週間のトレーニングから試合へと続くデュソー氏のコーチングがやっと始まった。おそらく、振り返り、修正も見せてくれるだろう。我々はこの一連のプロセスこそを学ばなくてはならない。トレーニング方法だけでは意味がないのである。FC東京のスタッフは試合後こう語ったという。「デュソー氏のコーチングは1mのミスも許さない」と。
デュソー氏の2年目はあと2ヶ月を切った。
文:樋渡 群